1887

OECD Multilingual Summaries

OECD Employment Outlook 2018

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OECD雇用アウトルック2018

日本語要約

失業率が低下しても、賃金は依然として低迷している

世界金融危機が雇用の質と包摂性に及ぼした影響が続いている一方で、多くのOECD諸国で雇用率は空前の水準にまで高まり、平均失業率も金融危機前の水準に戻っている。それにもかかわらず、名目賃金上昇率は金融危機前の水準を大幅に下回っており、(失業率と賃金上昇率との関係を表す)フィリップス曲線の下方シフト傾向は経済が回復している現在も続いている。この傾向の要因は、世界的な不況に伴って発生し未だ完全には回復していないインフレ見通しの低迷と生産性の低下である。また、低賃金の仕事も重要な要因である。特にいくつかの国々では、非自発的なパートタイム雇用が増加したため、パートタイム労働者の賃金はフルタイム労働者の賃金に比べて大幅に下落している。さらに、一定期間失業状態にあった労働者の賃金は比較的低く、失業率が依然として高い国々ではそれと相まって低賃金労働者の数が押し上げられ、それによって平均賃金上昇率が下がっている。

「スーパースター企業」の出現が労働分配率低下の一因

多くのOECD諸国では、実質賃金中央値の伸びは、過去20年間、労働生産性の伸びに追いついていないが、これは付加価値のうち労働へ分配される割合、すなわち労働分配率が低下していることを表している。設備財生産部門における技術の進歩とグローバル・バリュー・チェーンの拡大により、企業内の労働分配率は低下し、労働分配率が低い企業が占める付加価値の割合が高まっている。さらに、技術進歩が労働分配率に与える打撃は、低技能の職種と定型業務の職種の割合が高い国と産業において特に大きくなる傾向がある。労働分配率が低下している国々では、最先端技術領域において労働配分率が低下するという減少と、この領域の労働分配率が低い企業(「スーパースター企業」)が市場シェアを増やすという現象が見られる。最先端技術領域で労働分配率が低下しているのは、反競争的な力のせいではなく、労働分配率が低い新規参入企業がもたらす技術のダイナミズムが引き起こす「創造的破壊」のプロセスが拡大しているためである。こうしたことから、労働者が進行中の技術進歩を最大限に活用できる方法は、彼らのスキルを効果的に高めることだということがわかる。したがって、各国が良質な教育・訓練を整備し、利用しやすい学習の機会を提供しつつ、スキル需要を予測するシステムを開発することが極めて重要である。

団体交渉制度が、労働市場の実績向上に重要な役割を果たす

OECD諸国では、労働者の3人に1人の賃金と労働条件が労働協約によって管理されている。産業部門間の賃金を調整する交渉制度は、賃金格差の縮小や社会的弱者等を含む労働者雇用条件の改善と結びついているものである。賃金調整は、異なる産業部門で働く労働者間の団結を強め、マクロ経済情勢を十分に考慮することで団体交渉によって雇用を確実に改善させる一助となっている。しかし、集権化された交渉制度では、不平等の改善と雇用の増加は生産性の低下という犠牲の上に成り立っている場合がある。数カ国の経験によると、企業の雇用主と労働者の代表に対して、部門レベルの合意事項を詳細に検討し、企業の状況を考慮した産業部門レベルの合意を精査、調整する十分な余地を与えることが重要だということが明らかになる(「組織的分散型交渉」)。概して、広範囲にわたる市民社会のパートナーとの調整や組織的分散型交渉により、適度な包括性と柔軟性をもって労働市場成果を改善することができる。また、職場における社会対話も労働環境の質の向上に関わっている。

労働市場プログラムで、経済的理由で失業した労働者を支援

経済成長と生活水準向上の根底にある「創造的破壊」プロセスのせいで経済的変動で毎年相当な数の労働者が失業しており、これらの労働者の多くは所得が大幅に減少し困窮している。解雇された労働者の再雇用の見通しと所得保障を改善する第一歩は、まず失業者が新しい仕事を探す際に直面する障壁に対処し、彼らに特別な利点を与える国レベルの活性化戦略をさらに推進することである。経済的理由で失業した労働者とそれ以外の求職者とでは、2つの大きな違いがある。1つは一時解雇前の通告期間中に事前対策を講じる機会をより多く持てること、もう1つは雇用主が解雇対象の労働者がうまく転職できるように、理想としては労働組合や労働市場の関係当局と密接に連携して、大いに貢献できることである。所得補助の重要な問題点は、再雇用された労働者の賃金が大幅に少なくなった場合、収益力の減少をどのように補うべきかということである。また、完全失業期間中の失業給付受給条件も極めて重要である。

多くの求職者は失業給付を受給していない

失業給付の労働市場に与える効果の議論は、一般的に求職者が失業給付をすぐに利用できることを前提としている。失業給付を利用できるということは、雇用よりも労働者を保護する包括的な労働市場政策の重要な要素である。しかし、OECD諸国平均で失業給付を受給している求職者はその3分の1未満で、金融経済危機以降、給付対象が長期的にみて縮小している国が多い。給付率低下の背景にある理由は、これが政策課題になりうるか、また望ましい水準での給付維持にどの方策が適しているかを判断する目安となる。経済危機が発生して以来、移民流入や長期失業者の割合の大きな変化などにより求職者の特性が変化しており、それが給付対象の減少傾向に大きく影響している。しかし、近年のいわゆる「給付格差」拡大の一因は明らかに、財政引き締め、または失業者の求職意欲を削がないようにするために失業給付の条件を厳しくすることを狙いとする政策改革である。

職業人生全般で労働所得の男女格差が拡大しているのはなぜか

年平均労働所得の男女差は大幅に縮小しているが、2015年の女性の年間労働所得は依然として男性のそれより平均で39%少ない。生涯労働所得の男女差を比較できる推計値によれば、格差の大半がキャリアの前半で発生している。女性は職業人生の初期段階で転職する回数が男性より少なく、また出産と育児が母親の就労に及ぼす影響が、女性のキャリアに長期にわたって影響し、結果として職業人生全体にわたって男女格差が進行することになる。パートタイム就労の役割は曖昧で、それがあることで女性は仕事を辞めずに済む一方で、女性にとってキャリアの落とし穴となる恐れもある。労働所得における男女格差の様々な側面(雇用率、実働時間数、時間給などの男女差)にはそれぞれ重要性があり、政策的措置のための有益なガイドラインとなる。家族向け政策、男女双方の行動の変化を促す方策、父親と母親双方のパートタイム、フレックスタイム勤務の増加など職場の変化を促す活動は、女性がそのキャリアの中で出産という重要な時期をうまく乗り切り、労働市場に留まり、男性と同じキャリアの機会を掴めるよう支援する上で重要な役割を果たす。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

本要約の転載は、OECDの著作権と原書名を明記することを条件に許可されます。

多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2018), OECD Employment Outlook 2018, OECD Publishing.
doi: 10.1787/empl_outlook-2018-en

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